『giinika』7号特集、「場所と人と物語」のこと
『giinika』7号も早速たくさんの方々に手にとっていただいており本当にありがとうございます涙 県外の方々からもぽつぽつとご注文いただいており、様々な方のご紹介のおかげと感謝いっぱいです。配本中にはたまたまお会いしてその場で7号を買ってくださる先輩友人たちに励まされたり、いつも注文してくださる遠方の友人たちとのやりとりにほっと心が和んだり。読んでくださった方々が、近況を交えて感想を送ってくださる真心いっぱいのメールには、いつもしみじみと勇気づけられるばかりです。
さて今回の7号で「場所」をテーマにしようと思い立ったのは、私自身が昨年の春、家族とともに空き家だった家に暮らすようになったこと、それから公立図書館という公共の場所で働く経験を得たことからでした。そのことをじっくり考えるきっかけとなったのは、7号の冒頭文にも書きましたが、社会学者の三浦展さんから、空き家に暮らし始めた所感についての寄稿執筆をお声がけいただいたことでした。三浦さんには東京で最後に勤めた広告制作会社のインタビュー記事の仕事で初めてお目にかかったのですが、東京を離れる予定だということをお伝えすると、働き方のこと、住まいのこと、お知り合いの方々のことなど、様々な情報やアイデアを共有くださり、あたたかく背中を押してくださったことが心に残っていました。その三浦さんの大切なご実家がいまは空き家になられているとのこと。ご自身の問題であり社会課題でもある空き家をテーマに本づくりを進められるなかで、私にも声をかけてくださったのでした。
そうして原稿を書くなかで中山間地に立つこの家との出会いを振り返ってみると、空き家だったこの場所にはたくさんの痕跡があり、その痕跡が訴えかけてくるものを観察するうちにこの場所にどんどん惹きつけられていったことを思い出しました。ここにあるのはかつて暮らした人の痕跡ばかりでなく、この場所の寒さや湿気や光といった自然条件との関係性や時間の蓄積をも含み込んだ、人と場所との記憶のようなものでした。それは多木浩二さんの『生きられた家』に書かれていることそのもののように感じられましたが、けれど家を見つめる自分自身のまなざしは決して客観的なものではなく、この場所の使い手としてすでに関係性のなかにあり、この場所を心身ともに身近な距離で見つめているように感じました。それは臨床心理学者の河合隼雄さんが「物語を読むときには分析するより感情移入して読む」といったことを著書に書かれていたように、その場所を体験者として見つめたいということ、そして箱庭療法の箱庭のように場所にはまさしく具体的なモノのなかに精神的な時間が浮かび上がって見えてくることの興味深さを感じたのでした。
そうして7号特集は、場所のかたちやつくり方というよりも、その場所をつくる人たちの場所との出会いや暮らしのあり方といった、場所と人との関係性を見つめる旅となりました。また、図書館で過ごした時間のなかでは、物語や昔ばなしによって場所をつくる方々とも出会い、物語が人や場所にもたらすものを私自身も体験する機会を得ました。
築百数十年の古民家を拠点にそれぞれのスタイルで暮らしながら地域の場所をつくる蔟mabushiの遠藤真弓さんと茅野唯さん、そして建築家でツキノワ代表の伊東優さん。市民参加のワークショップを経て改修された村山市の公共施設Link MURAYAMAとそこにかかわるみなさん。図書館や保育園・幼稚園などで昔ばなしの素語りを続ける「ききみみの会」代表の井上幸弘さん。同じく図書館や児童・介護施設で自作の紙芝居を自ら演じる紙芝居作家の折原由美子さん。喫茶店と演劇とを長く続けながら対話の場をつくり続けてきた「りぶる」マスターの阿部滿さん。評論家の池上冬樹さんには、山形小説家・ライター講座という場所について寄稿いただきました。
今号に登場する方々のお話に耳を澄ませば澄ますほど、その方々がいまの活動や場所をつくっていらっしゃるのがなぜなのか、その動機と体験とがご本人のこれまでの道のりと切り離し難くつながって見えてくるようでした。一つひとつの場所を根本から支えて持続させている一番のものは、きっとそうした個人個人の切実さを伴う継承で、それがきっと場所の力なのではないかと感じています。
連載のこともご紹介したかったのですが、長くなってしまいましたのでまたあらためて。みなさま7号もどうぞよろしくお願いいたします。ぜひお近くのお取扱店さんにてご覧ください!