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『giinika』6号「つりちゃんのはなし」記事を期間限定で公開!

たつのこ保育園園長のつりちゃんに、保育園づくりのこと、自身の子育てのことなどをあれこれ語っていただく連載企画「つりちゃんのはなし」。毎回子どもを中心に据えた保育現場のエピソードやつりちゃんの人柄があたたかく、創刊以来「楽しみにしている」との声が多く寄せられています。

6号では、今月12日に東京都内で記者会見が開かれて国への政策提言が発表された、保育士一人あたりが受け持つ子どもの数を示す「配置基準」についてのおはなし。「保育士があと一人いたら…」と感じた遠足中の出来事のこと、保育現場で働く仲間たちが働き続けられる環境をつくるためにも配置基準の改善が急務であることなどを語ってくださいました。

私自身、保育園という場所で、子どものみならず自分自身が育てられ、安心して仕事に取り組む時間を与えてもらってきました。子どもたちが健やかに成長できる環境をつくることは、親や保育士をはじめとする大人たちが健やかに働く環境づくりに直結していると感じます。保育園という場所に育てられ救われてきた一人として、子どもたちのみならず保育園で毎日全力で子どもたちを見守ってくれる方々がしっかり保障される環境整備を国に進めてほしいと心から願い、このたび6号での「つりちゃんのはなし」記事を期間限定で公開します。ぜひご覧ください。

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つりちゃんのはなし⑥ 保育園とわたし

保育士があと一人いたらと実感した年長の子どもたちとの千歳山登り

 ここ数年で様々な改善がなされてきてはいるものの、いろんな場面で保育士が足りていないと実感することが増えてきたんです。コロナ禍に保育園を運営するなかで、「子どもたちにもう一人保育士を!」という運動(※1)が愛知保育団体連絡協議会を中心に始まり、賛同者を募る活動はいま全国に波及しています。現場から声をあげなければ、現在の保育士の配置基準では子どもたち一人ひとりを大事にする保育ができず、一緒に働く保育士たちの生活も守れないと感じています。

 そのことを特に強く実感したのは、今年の春に年長クラスの子どもたちと千歳山に登ったときでした。17人の子どもたちと大人4人で登り始めたのですが、ぐんぐん進む集団と、のんびり登る集団とに次第に分かれていったんです。その日は職員3人のほかに園児のお父さん一人が保育参加で一緒に登ってくれていて、のんびり歩く子ども二人は、そのお父さんと私と一緒に登っていました。まだ気分がのらない子もいてゆっくり進んでいましたが、ある程度登ると別の職員一人が3人の子どもと立ち止まっていました。それを見て、先頭集団とはだいぶ離れたに違いないなと。そのときその場に子ども5人と大人3人がいたので、先頭集団は職員一人が子ども12人を見ていることになる。それは心配なので、職員一人に急いで先頭集団を追いかけてもらうことにしました。そうして、子ども3人を新たに引き受けて、子ども5人と大人二人ののんびりチームはそのまま登っていきましたが、結局山頂までは行かない選択をすることにしました。無理してがんばらなくてもいいんじゃないかと思ったし、自分たちのペースで素晴らしい景色を見ながら楽しく進んできたのだから、そのペースを崩したくないなという気持ちで。それで、「もうここでおにぎり食べたくない?」って子どもたちに投げかけて、山頂まで行かずに中腹でお昼ごはんを食べることにしたんですね。そのときに初めて、子どもたちに保育士がもう一人必要な意味がよくわかった。もしも保育参加してくれた保護者がこのときいなくて私一人だったとしたら、その選択はできなかったかもしれないなと。もうちょっとペースを上げてがんばらせたり、前の集団に追いつくように無理して仕向けたんじゃないかなって。それは、ゆっくり歩きたかった子どもたちにとっては、本来自分たちの過ごしたい時間ではない過ごし方をしなければならなかったかもしれないということなんです。そんな状況が、日々あちこちで起こっているというか。

保育現場で働く人たちが健やかに働き続けられる環境づくりを

 集団として育ってくると、子どもたちがみんなで一緒に考える場面が増える一方で、一人二人がほかの子たちとは違う好きなことをしている場面というのもやっぱりあるんですね。そういう子どもたちのことを私たちは認めたいと思いながら保育をしている。だから、「もう少し、あの子とかかわれたらよかったな」と思うことが、日々のなかでいっぱいあるんです。4、5歳児は、国の配置基準では子ども30人に保育士一人だから、4、5歳児が34人のたつのこ保育園の場合は、国の基準だと保育士1‌.‌1‌3人という計算になる。けれど小数点以下は四捨五入で切り捨てられてしまうので、この算定方法だと子ども34人でも保育士一人の計算になる。でも子どもの育ちを保障するという意味では、4歳児も5歳児も複数担任が望ましいんです。だからたつのこ保育園では、例えば全クラスで10人ほど職員を増やしていますが、それでも足りないと感じていますし、4、5歳児複数担任は実現できていません。私たちの給料は、配置基準の人員分支払われるものなので、独自に保育士の配置を増やせば、自ずと職員一人当たりの給料が低くなるのです。

 「配置基準自体を引き上げた場合、基準に見合うだけの保育士等の確保が必要になり、保育現場に混乱が生じる可能性があるため配置改善(※2)で対応している」と国は説明していますが、「社会福祉施設等調査」の結果によれば、保育園で働く保育士は有資格者の約3割で、約7割は保育園で働けていない状態です。よく言われる保育士不足ではなく、いまの保育園で働きたい保育士が不足しているということなのです。保育士になろうと思う人は、本来子どもが好きで真面目で、子どもと一緒に成長しようとする人たちなんですね。その人たちがそれほどの割合で働けず、力を発揮できない状態にあること自体、重く受け止める必要があると思います。まずこうした潜在保育士の人たちが健やかに働ける環境をつくるためにも、保育士の配置基準の改善が、いますぐ必要だと感じています。

※1「子どもたちに、もう一人保育士を!」(愛知保育団体連絡協議会)

※2 配置改善とは、配置基準以上に職員を配置している保育園への加算対応のこと

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記事を読んで関心を持たれた方は、友人同士でお話しいただいたり、通われる保育園で署名についてお尋ねいただけたらと思います。また、こちらから書式をダウンロードして署名にご参加いただくことも可能です。

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