『giinika』5号特集、「動物と生きる人たち」のこと
giinika5号が出来上がり、ただいま配本を進めています。読んでくださった方々からご感想が届き胸が熱くなる日々。5号巻末「読者の声」でも購読くださった方々のご感想を紹介していますが、このページをつくるときもいつも雑誌をつくれるありがたさを噛み締めます。ただつくるだけでこんなに癒される瞬間を体験できること、なんてしあわせなことだろうかと思います。
4月から週の半分ほど図書館勤務が始まったのですが、取扱店のみなさんとはやはり直接やりとりしながら配本しており、それを続けられるのはなぜかと考えると、giinikaを取り扱ってくださる方々が本当に心地よい方ばかりだからとしみじみ思います。深夜や早朝のご連絡、突然のご訪問、井上の忘れ物や大間違いのトンチンカン、、いつもあたたか広々の懐で受け止めてくださり、心から感謝です。雑誌は「会いたい」でできていることを、あらためて感じています。
家族が養鶏をやりたいと言い始め、それなら私たちは家畜や動物との関係性をどんなふうに考えていくの?とふと立ち止まることになり、庭で2羽にわとりを飼い始め、自分では飼えない牛の餌やりもやり始めてみることにしたのが昨秋のこと。その蔵王ファームの牛舎で出会った武田誠司さんは、よろよろとチモシーを割いて牛たちにやろうとする私の隣にすっと来て、「牛の背中を見るんだ」と言い始めたり、いつも率直な言葉であまりに唐突に興味深いことを話し始めました。この人は何を見ているのだろう。雨の日も雪の日も牛の顔を見て餌をやり続ける現場の方々の言葉にもっと触れたい。そんな思いで話を聞かせてほしいと伝えると、あまりに淡々と、鋭く本質的な視点を見せてくださいました。日々牛の何を見ているのか。負ける牛が食べられるためには牛舎の構造をどう使うのか。牛も土も育てるという点では同じということ。武田さんはお会いするたびにとめどなく語ってくださいました。
武田さんのお話を伺って、牛とかかわる現場の方々をさらに訪ねようと決めたのは、年明けになってから。短角牛を放牧で育てる月山福祉会理事長の石川一郎さんを訪ねて短角牛に込められた骨太な「ロマン」への思いをお聞きし、やまべ牛乳をつくる後藤牧場代表取締役の後藤信也さんからは山に遊ぶことの心得を授かり、同工場長の鈴木進さんからは洗浄7割の手仕事が作り出す牛乳の風味について伺い、それらの言葉は私の身体にぐんぐんと沁み込んでいきました。
そして「なぜ動物を食べるのか」ということを考えたとき、いまも地域コミュニティに実際的に狩猟可能な技術や力があるということや、獲物を分かち合える関係性があることは、実は人が生きるしあわせの根幹に深くかかわっているのではと思い始めました。そうして狩猟の現場にいらっしゃる方々の言葉を仰ぐべく、鷹匠の松原英俊さんと、小国町でマタギになられた蛯原紘子さんを訪ねました。松原さんと蛯原さんに伺ったお話は、動物を考えることのみならず、動物を通して人や社会を考えさせられる深い洞察に満ちていました。自然のなかであらゆる因果を蓄積させていく身体は、きっと無意識を切り開いて進化してきた人間のあまりに長い歴史とつながっていること、そうした歴史と身体の関係性にもあらためて気づかされる思いでした。
よい悪いではなく、ただひたすらに動物と生きる人たちの現場にあるものをつぶさに見ることから考えたい。そんな思いで始めたのが、今回の5号特集「動物と生きる人たち」です。動物と人、その周辺や隙間にあるものの多様さや深遠さを、登場するみなさんの言葉のなかに体験いただけたらという気持ちです。そして5号表紙にはこれ以上ない大沼洋美さんのこの写真。ぜひお手にとってご覧ください。