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『giinika』11号、特集「「自然」を見つめる」のこと

さて、giinika11号発行から早くも2カ月が経とうとしており、夏の時間のスピード感には慄くばかり。娘氏との日々も畑でも、毎日がイベントだったかのようなヨレヨレ感ですが、しかしお盆も過ぎてようやく少しリズムを取り戻しつつあります。残暑がぐっと厳しくなっていますので、みなさまどうかくれぐれもお身体いたわってくださいますように。

さてgiinika11号のことがすっかり遅くなってしまいましたが、発行直後からメールやお手紙を頂戴したり、お会いした際にご感想を聞かせていただいたり、11号は想像以上に早速たくさんの方からの様々な反響があり、とてもうれしく思っています。11号を手にとって読んでくださったみなさま、ありがとうございます。

11号特集は、「「自然」を見つめる」とのタイトルにしましたが、そもそも自然をテーマにしたいと思ったきっかけには、大きく二つの体験がありました。 一つは、自宅から娘の学校までの片道徒歩約40分の道のりを、試しに毎朝歩いて下るなかで、身近にありながら見えていなかった樹々や空、川の移ろう姿に目を見開かされたこと。もう一つは、昨夏のめまいのするような強烈な日差しと、雨もなくそれを連日浴びた畑の野菜たちが、対策なしにはもはや育ち得ない状況になってしまったことへの危機感でした。

そもそも「自然」というのは哲学や文学、美術などにおいても人が向き合い続けてきた歴史的・根源的なテーマですが、11号制作後もこのテーマの奥深さと重要性を感じさせられる機会はますます増えています。

例えば、6月に公開された濱口竜介監督の映画『急に具合が悪くなる』のなかでは、資本主義と自然との関係が端的に語られていました。外部を食い尽くしながら内部の富を増殖させてゆく資本主義の構造のこと。そしてその土台の資源とされるのが、決して無尽蔵ではない自然や人の身体であるということ。

あるいは、月刊誌『地平』2026年9月号(株式会社地平社発行)の特集「生きられる都市へ」では、6月の杉並区長選挙で対話を重視して再選された岸本聡子さんのインタビューが掲載されています。そのなかで岸本さんは、「生活者として生きられる都市、人権が保障されて生きられる都市であることはもちろんですが、あまりに過酷な気候変動に直面している危機の時代において、そもそも生命として生きられる都市であるために新しい都市設計が必要であり、その重要な基盤は自然や緑となるでしょう」と語っています。

今回のgiinika11号に登場くださった方々のお話も寄稿も、まさにこうしたいまという時代を俯瞰的に照らし出してくださるものばかりでした。それは、みなさんそれぞれの「自然」を搾取の対象としてではなく、ともに生きる環境として見つめ、その「自然」を問う時間を通して、資本主義社会の二項対立的な競争から脱した身体や言葉とともにある、ということのように感じられました。

チェビオットの大沼久美子さんが、自然光の薄明かりのなかでスピンドルを動かして毛糸を紡いで見せてくれたときの、その踊るような手捌き。まだ肌寒い春の夕方に、ひょいっと羊を抱いたやわらかな腕から伝わってきた深い愛情。 私は息も切れ切れだった蔵王坊平のお清水の森の急勾配を、チェビオットの大沼邦充さんは軽やかに楽しげにぐんぐんと分け入っていかれた後ろ姿。その確かな身体に支えられた自由な足どりを追いかけながら、自然は考えるばかりでは決して知り得ないと身体で知る思いでした。

地質学を専門とする山形大学名誉教授の川邉孝幸さんは、ダム完成後もダムが環境に与える影響を現場で調査し続けていらっしゃいました。そしてダムの堆積物がもたらす問題点について、ダム建設にかかわる河川工学や土木の研究者の方々と、直接意見を交わす対話の場に参加されたり、野尻湖での発掘調査にも大学入学前からずっと参加し続けています。

石油という、それこそ資本主義の動力である自然をめぐって抵抗するパレスチナの人びとを追ったドキュメンタリーの上映会を、友人たちと企画し続けているのは、山形国際ドキュメンタリー映画祭職員のひろもとななこさん。自然を所有しようとする力への抵抗として、ご自身も畑へ通われています。土を触る、その行為に込められている、世界とつながる意志。今号では廣本さんが詠まれた短歌も紹介しています。

映画監督の三宅唱さんは、映画『旅と日々』を撮るにあたって立てられた問いがありました。それは、「どうすればいま本当に自分が生きているということを感じられるか」。その問いにたどり着かれるまでのこと、その過程で発見された自然について。人の心理で解釈しきらない、それでしかない独立した一瞬が、深くしなやかに焼き付けられていたのは、映画だけでなくこの寄稿においてもそうでした。

giinika10号では武田和恵さんとの対談でご登場いただいていた、「アートマン」の池田洸太さん。そのお話のなかで、高校時代の美術部の先生が、入部直後に池田さんの抽象的な表現を見て「デッサン、やらなくていいよ」と言ってくれたこと、その先生の言葉を真に受けて、大学でも抽象画を描き続けたことが語られており、それがとても気になっていました。そこで11号では池田さんの絵とともに、池田さんの高校時代の美術部顧問でいらした佐藤義徳さんにもご登場いただきました。佐藤さんのお話には、教えること、人とつき合うことにおいて、「自然である」とはまさにこういうことなのではと気づかされるエピソードがたくさんでした。そして池田さんの作品は、モノクロの紀行文とスケッチ「旅の途上」と、クレパスとオイルパステルで描かれた大作「雪の日々」を今回掲載しています。池田さんが自然のなかを歩くときの、風景全体を捉えるような大らかな視点のおもしろさ。壮大なイメージとともに、一つひとつを美化して閉じ込めるのではなく解き放っていくような、色と線の豊かさ。

2025年夏に同人誌『大朝日』が創刊されましたが、その雑誌をご友人たちと制作し、ご自身も漫画を寄せていらした星美沙子さん。その漫画が素晴らしく、また星さんが山を歩く時間を暮らしのなかでとても大切にされていることを知り、11号には山についての漫画作品を寄稿いただきました。モノクロで台詞のない作品ながら、そこにある光や水、土、においが感じられるようで、その一つひとつのなかにすでにあったファンタジーを見せてもらったような思いでした。

さらに連載では、呉晴惠さんの「おやまカフェ店員、呉さんの日常」にて、呉さんの猫についてのちょっと寂しくも静かな愛のかたちに考えさせられる寄稿。たつのこ保育園園長の「つりちゃんのはなし」では、子どもたちの好きなことを軸に据える保育の大切さにたどり着いた、たつのこの大人と子どものエピソードについて。「武田和恵さんに聞く 福祉とアートのはなし」では、福祉事業所へ通われる利用者さんの「好き」にどんなふうに気づき、それを肯定し、まわりに伝えていくか、それが利用者さんの表現の可能性へとめぐっていることについてのお話。丸山傑さんの「鶏と生きるためのデザイン」は、「コケコッコー!」と大きな声で鳴く雄鶏の存在が、群れと著者の暮らしにもたらしたものについての寄稿。連載でのみなさんの寄稿やお話のなかにも、今回どことなく重なるテーマがあり、ぜひとも読んでいただきたいものばかりです。

giinika11号も、ぜひお近くのお取り扱い店さんにてお手にとってご覧いただけましたらうれしいです。そして誌面にご登場のチェビオットさんなど、気になられた方はぜひ直接会いに行ってみていただけたらと思います。11号も、どうぞよろしくお願いいたします。

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