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『giinika』4号「武田和恵さんに聞く 福祉とアートのはなし」記事を期間限定で公開!

福祉とアートをつなぐ取り組みについて、アートサポートセンターら・ら・らの武田和恵さんに伺う連載企画「福祉とアートの現場から」。9月末発行予定の4号からは「武田和恵さんに聞く 福祉とアートのはなし」と少しタイトルを変えて、引き続きその取組みをご紹介します。4号では、アートサポートセンターら・ら・らが各団体と取り組む身体表現ワークショップおよび、現在開催中の山形ビエンナーレ2022での障がいのある方々を含む市民ダンスパフォーマンスについてお聞きしています。山形ビエンナーレ会場の一つであるQ1では、本日9月11日(日)にもダンスパフォーマンスがあり、9月25日(日)まで関連企画もさまざまに開催中。私自身も昨日パフォーマンスを体験しましたが、こうした企画の背景に触れた本記事もこの機会に合わせてお読みいただけるとよいのではと、4号発行までの期間限定にて記事を公開いたします。ダンスのおもしろさとともに、ワークショップの凄みを教えてくださるお話です。ぜひご覧いただき、実際の会場にもお出かけいただけたらと思います。

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武田和恵さんに聞く 福祉とアートのはなし③「ここにいない人を想像できる仕組みをつくる」

★ 本連載は、山形県内の障がいのある方たちの芸術活動の支援を行なう、やまがたアートサポートセンターら・ら・らのコーディネーター 武田和恵さんに、福祉とアートをつなぐ取組みにおける「与え合う支援や連携」についてお聞きするコーナーです

支援する人の動きを変えたオンラインでのワークショップ

 2‌0‌2‌1年度からはアウトリーチ事業のなかで、山形県内の各団体と連携して、身体表現のワークショップを実施しているんです。振付家でダンサーの砂連尾理さんにファシリテーションを依頼し、オンラインを交えて進めてきました。障がいのある方々のなかには、描いたりつくったりする造形表現より、身体で表すほうが得意な方もいらっしゃるので、そうした表現の場を多様にしたいというのがこの取り組みの目的でした。砂連尾さんは十数年来、高齢者施設で認知症の方々とダンスをされているんですが、最近はオンラインでのワークショップを始めたと聞いていたんです。砂連尾さんから「オンラインのほうが支援しているスタッフさんが積極的に動かれているよ」ともお聞きし、支援するスタッフさんが自ら盛り上げていくことは、ワークショップにおいてとても大事なことだなあと思いました。また、コロナ禍だからできないと嘆くのではなく、いまの状況を咀嚼して、どうかかわっていけるかを考えることは、表現することや生きることにもつながることだと思うんですね。そのようなことから、砂連尾さんのほか、山形県内在住の方に現地ファシリテーターとして参加していただき、人材の育成にも重点を置いたダンスワークショップを実施しました。

ダンスワークショップのようす

上写真:齋藤達也撮影、やまがたアートサポートセンターら・ら・ら提供

 現場で直接集まる場合には、その場の雰囲気や空気を共有できたりしますが、オンラインではそれができないので、その分何度も打ち合わせをします。オンラインだと「伝わらないかもしれない」と思うからか、直接会うときよりもみんな丁寧に伝えようとしていました。また、ワークショップ前には現地ファシリテーターで集まって、一度身体を動かす機会をつくり、ワークショップの目的などを、実際に体験しながら共有する時間をつくりました。ワークショップでのダンスというのは、フリに合わせるダンスではなく、二人組で目と目を見つめ合ってみるとか、それぞれの存在をちょっと眼差してみることをするんです。フリに合わせようとすると、支援するスタッフさんが利用者さんに教える格好になりがちですが、このワークショップでは目の前の人の動き方や存在と一対一でかかわることをやるんですね。私は言葉で気持ちを伝えるのが苦手で、感じたものをよく写真に撮っていたんですが、ダンスもそれに近い印象なんです。自分がいるその場所を感じて、感じたことを外に出してみると、気持ちがよくてすっきりするんですよね。

ダンスを通して自分とは違う人やルールと共存する

 山形ビエンナーレ2‌0‌2‌2では、障がいのある方も子どもも、あらゆる市民から参加者を募り、砂連尾さんや現地ファシリテーターの方々と、6月から17名でワークショップを進めてきたんです。参加プログラムのテーマが「まちのおくゆき」なので、まちのなかの多様性、地域にはいろんな方がいるということが感じられるワークショップになればいいなあと。アウトリーチ事業で各事業所などに出向くなかで、障がいの重さやそのほかの条件から見て、ワークショップにはなかなか参加できそうにない方がいらっしゃるんですね。なので、事業のなかでは現場に出向いてダンスを続けながら、市民参加のワークショップでは、そうした現場の方々のことを伝えてつないでいくような仕組みづくりができたらいいなと思っています。対面で会えない人のことをどうしたら想像できるかということが、このワークショップのもう一つのテーマなんです。会えない人や、ここにいない人を想像する力や、背景を考えてみることは、地域社会においてとても大事なことのように思われます。目に見えるものや地域のルールだけを信じるのではなく、自分とは違う人や別のルールをどう想像して共存できるか。こうした取り組みが、今後も継続的に実施できたらと考えています。

山形ビエンナーレ2022でのダンスパフォーマンス

上写真:三浦晴子撮影、東北芸術工科大学提供

武田和恵(たけだ・かずえ) やまがたアートサポートセンターら・ら・らコーディネーター。1977年山形市生まれ。東北芸術工科大学デザイン工学部情報デザイン学科卒業。一般財団法人たんぽぽの家、NPO法人エイブル・アート・ジャパンの東日本復興支援プロジェクト東北事務局にて、障がいのある人の仕事づくりや芸術活動支援事業に携わる。2018年より現職。

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